【入院】2日目。戸惑ったって入院生活は始まる。
2日目になってようやく、ここに居ることの意味が分かってくる。
一晩中点滴をしてもらった朝、近年稀に見るくらい目覚めがいい。「あ、なるほど、最近辛かったんだな」と感じさせられる。
朝起きて、タオルを持って洗面台に行き、点滴を腕から下げた、ゾンビみたいな歩き方した面々が並んで顔を洗ったり歯を磨いたりする。
そこに居ることがどこかギャグかのように感じ笑えてくるが、私もしっかりと一員だ。
「こんなパジャマ姿で人様に堂々と会ったり歩いているとか、正気の沙汰じゃねえな」って昨日思ってた気持ちが、もう失せてきている。
スッピンで、パジャマで、堂々と多くの人の前に姿を現している。
まだ入院していることに実感はないし、診断ももらっていないから心が宙ぶらりんで、
こんなノーブラ野郎でも歩いていられる。
有り難いことに看護師さんもお医者さんも、とてもとても皆さん感じが良い。
去年入院した病院とは大違いだ。こんなにも病院の違いで、働いている人々の雰囲気が違うのか。
しかし同時に、これだけ働く人の満足度の高そうな場所だと、その中で楽しくなさそうな人が目立っちゃう。
他の人と明らかに違う、下を向いて働いている人。足先をダランとして歩いている人。そんな人が多分「あ、もうすぐ辞めるな」と見ていて分かる。視野が狭い。
と、こんなこと言ってられるのは、どうにも体が楽だからだ。
確かに痛いものの、ステロイドやら抗生剤やらで劇的に和らいでいる。
「こんなんで入院なんてしていいのかしら…」の戸惑いすら覚える。
だから、病棟をウロウロ。徘徊者のようにウロウロ。
何かとウロウロ。心は動きたがっているのに頭が働いていないから、
「あ、あれ忘れた」が頻発する。
「あ、WIFI器忘れた」
「あ、水忘れた」
「あ、金庫の鍵忘れた」
と何度も何度も病室と食堂をウロウロする。
病人気分になれない。ウロウロウロウロ。
そしてそんな状態で、診断が来た。
「梅毒が脊髄に回っているかも」そんな妄想は、一瞬で終わった。
これまた小声で、「そういう数値は出ませんでした。クラミジアも、梅毒も、HIVも出てないですね」
あらま…。告知と同じで、なんだかあまりにもスムーズな物言いに、どう反応したらいいかよく分からない。
どうやら、性病系以外の何かしらの感染で猛烈に腫れてしまっているらしく、
でもまだ何による感染かは数値で出てこないので、様子を見ましょうということになった。
「抗生剤で炎症を抑えるため、且つ原因を探るための入院」という診断をもらった。
入院期間は約1週間だという。
さて、与えられたこの1週間で、何しようかな。
山に囲まれた病院で、緑見ながら3食飯付き。
右手にゴロゴロと押さなきゃならない点滴もついているけれど、そんなに悪くない。
何より入院する前の10日間くらいが辛すぎて、だから今、極楽くらいに感じる。
違ったから笑って話せるけど、性病で入院ってこんなに恥ずかしく思うのかと自分の反応に驚いた。
「どうしようもないSEXしてますね」って言われているような気持になるのかと、知った。
私の中に、病気への差別意識は無いと思っていたのに、やはりちょっと恥ずかしい。
パソコンを開いて、仕事の調整をし出した。
本当は「入院しました」も「もろもろ遅れます」もまだまだ送りたくない。
まだまだ、抗いたくなる。ちっくしょーーーーー!
でも、もう入院は決定事項だ。渋々、必要最低限の人にだけ、「ごめんなさい」を送った。
こんな日に限って、「今日飲み行かない?」の連絡が沢山来る。んだよ、んだよ!ちっくしょーーーー!くやしさ、溢れる。時間がもったいない。
たかが一週間だけど、されど一週間だし、一週間入院するということは、その後体力が戻るまで何カ月もかかることを、私は知っている。私は、入院事情に詳しい女。
「てかお前、なんで二年連続入院とかしてんの、もはや趣味?趣味なのか!」と、自分へのツッコミが止まらない。
きっと、報告された回りの人間も、そのツッコミをしているだろう。
とてもとても大切で、今人生でこれ以上ないくらい大事にしている仕事にも、「ごめんなさい」を送った。本当に送りたくなかった。頑張って頑張って手に入れたのに。逃したくないのに。「遅れますが、絶対に○○日までには送ります!」という必死メールに、「ひとまず体治してください」の返事。ありがたいけど、それも寂しい。
1時間くらいかけて、ゆっくりと夕食を食べる。お箸が入るか入らないかぐらいしか口が開かないため、ただただ時間がかかる。
お粥と、消化の良さを目指された食事は、どうにも美味しくはない。
でも不思議と、昨日ほどまずくは感じない。
もしかしたら昨日のまずさは、体調の悪さゆえかもしれない。
そう思ったら、病院食が「美味しくなる」ことなんて、永遠に無いんじゃないだろうか。調理師さんかわいそう。
9時には就寝。夜中、首やら耳の後ろやらが痛くて目が覚める。気を紛らわせようとしてもやっぱり痛く、支給されている体温計で計ると熱が上がっていたので、ナースセンターまで痛み止めをもらいに行く。
本当はナースコールを鳴らした方がお手間を取らせないのだろうが、6人部屋で皆さん寝ている中、ナースコールを鳴らすのは勇気がいる。
痛いときに痛いって言えば(言えないけど)痛み止めをくれる。やっぱ病院っていいわあ。病人には病院に限るわー。しかしいてーこんちくしょう。
まさか翌日、突然喉を切開されるなんて、思いもよらなかった。
この時は翌々日、外出許可もらってちょっと仕事に行く気満々だったのに。それの準備もしていたのに。その資料を、わざわざ病院に届けてももらっていたのに。